ここでは、調速脱進機の重要な要素である振り角、慣性モーメント、エネルギーの関係について記載致します。
※以下に示した「一般的な数値」は、条件によって大きく変動する可能性があることを考慮してください。さまざまなサイトで具体的な数値があまり示されていない理由は、数値が絶対的なものではなく、あくまで目安に過ぎないからです。これらの数値は、私の経験則に基づいたものに過ぎません。
振り角とは
振り角は、テンプがどれだけ回転するかを示す角度のことです。一般的には、左右に250~320度程度の振れ幅が理想です。この角度は、時計の動作や精度に直結する重要な指標です。
※往復の合計角度ではなく、片道の角度です。
慣性モーメントとは
慣性モーメントは、物体が回転運動をする際の「回転のしにくさ」を表す値です。テンプの場合、その重さや形状、重心位置によって値が決まります。慣性モーメントが大きいほど回転しづらく、小さいほど軽く回転します。
テンプの慣性モーメントは通常、約10~13 mg・cm²(ミリグラム平方センチメートル)とされ、高性能なムーブメントでは21 mg・cm²に達することもあります。
エネルギーの関係
エネルギーは、物体が持つ「動きの力」として理解できます。振り角が大きくなるほど、テンプが動くために必要なエネルギーも増加します。これは、振り子が高い位置から落下するとき、より多くのエネルギーを利用するのと似ています。
テンプの必要エネルギー: 1秒間に 10 µJ~20µJ(マイクロジュール(一般的な数値)
振り角、慣性モーメント、エネルギーの相互関係
振り角、慣性モーメント、エネルギーは密接に関係しています:
振り角が大きいほど、テンプが動くためのエネルギーも多く必要となります。
慣性モーメントが大きい場合、テンプを動かすにはより強い力が必要です。
逆に、慣性モーメントが小さい場合は少ないエネルギーで大きな振り角を得ることができます。
これらの要素は、時計の設計や性能に大きな影響を与えるため、適切なバランスが求められます。
参)輪列等の設計上の関係式
時計設計上の数値については、振り角や慣性モーメント、エネルギー計算は勿論、たとえば摩擦係数や重力、等時性、トルク計算、ヤング率など、かなり高度な数式をいくつも駆使して導き出されます。
ここではムーブメント制作時に使用な公式の一部をご紹介致します。
伝達比
サイト記事内の「③18,000振動/時の時、各歯車伝達比の検証」をご覧下さい。
香箱車のトルクについて
香箱車のトルク数値については、設計やゼンマイ(材質や長さ/厚み等)によって大きく異なる為、一般的な数値はあまり公表されてませんが、特許2002-71836における記述の中で「一般に、ぜんまいトルクは約60g・cmであり、この時の手巻き時計のぜんまいトルクの最大値は約500g・cm、自動巻き時計は約100g・cmであり、250g・cm以上になると巻き締め感を感じられるようになる。」との記載が御座いますので一つの目安にはなると思います。
テンプの慣性モーメント計算慣性モーメントI は、質量m と回転半径r に基づいて次の式で表されます:I = m × r²ここで、 Iは慣性モーメント(単位:mg·cm²) mは質量(単位:g) rは回転軸からの距離(単位:cm)この公式は、回転する物体の質量とその質量の分布に関する基本的な関係を示しています。
(例えばモリッツ・グロスマン Cal.102.0のテンワの慣性モーメントは13 g・㎠。一般的な範囲では小型ムーブメント:4~6 g・㎠中~大型ムーブメント:10~13 g・㎠)
本格的に知りたい方は以下リンク「機械式時計の理論」(著作:笹谷卓史様)をご覧下さい。
~まとめ~
今回取り上げました、振り角と慣性モーメントやエネルギーの関係について端的に申し上げれば、
・振り角はテンプの動きの範囲を示す
・慣性モーメントはその動きのしにくさを示す
・エネルギーはその動きを実現するために必要な力を示す
これらは互いに関連し合い、時計の正確な動作を支えております。また、細かな数式を組み合わせて設計・制作を行った上で、最終的には組み立て技術も精度に関わってくる点もご留意下さい。


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